
VTuberシーンに燦然と輝く異能集団KAMITSUBAKI STUDIO所属アーティストのリレーインタビュー第2弾は、バーチャルラップシンガー春猿火を迎える。体を突き破らんばかりに溢れるエモーションを120%表現してみせる力強い歌唱を武器に、ミステリアスな雰囲気漂うKAMITSUBAKI STUDIO所属アーティストの中でも独特の雰囲気を醸し出す彼女だが、パワフルなイメージとは裏腹に胸に秘め続けるものがあった。
「かっこいい春猿火に憧れて強さを演じていた部分があったのかもしれません。」先日行われた初のワンマンライブで涙ながらに語られたのは、本当の自分を曝け出したいという思い。等身大の彼女が持つ弱さと向かい合い、その上で春猿火として歌い続ける覚悟を決めた彼女は、アーティストとして一つ上の次元へと歩を進める。
ワンマンライブを完遂し、待望の1st Albumリリースを控える今。殻を破って飛翔の時を迎えた彼女の抱く新たな決意を語ってもらった。
迷いを断ち切って
―1st ONE-MAN LIVE 「シャーマニズム」の成功おめでとうございます。開催から少し時間が経ちましたが、改めて感想をうかがえますか?
春猿火:ワンマンライブはデビュー当時から目標にしていたことでしたし、いつも歌を聞いてくれているファンの皆さんと直接会えたのも嬉しかったです。シャーマニズムチームでめちゃくちゃいいライブをつくりたくてずっと準備してきたので、今は成功して安心というか、安堵に包まれたような気持ちでもあります。
ライブ当日は「#春猿火シャーマニズム」がトレンドに入るくらいみなさんツイートしてくれて本当に驚きました。V.W.Pのメンバーもみんな見てくれていて、後で個人的にメッセージも貰ったりしましたし、改めて暖かい人たちに囲まれたいい環境にいるなと思いましたね。
―まさに神憑り的なパフォーマンスでしたが、ご自身でも手応えは感じられましたか?
春猿火:アーカイブを見て気づいたんですけど、歌やラップにものすごい成長を感じるというか、やっとマシに聞こえるようになったのかなって感じがしました。デビュー当時の楽曲って、今聞くと歌声から迷いを感じることがあるんですけど、ライブだとそこが吹っ切れたような歌い方ができていたので、少しは成長した自分を見せれたってことなのかなと思います。
―中盤に「命に嫌われている。」をオリジナルVerで披露されたのは大きなサプライズでしたが、代表作の一つであるラップVerではなくオリジナルVerで披露されたのはどういう意図によるものだったのでしょう?
春猿火:デビューしたての頃にラップVerでカバーさせていただいて、この前は花譜ちゃんともコラボして披露させてもらったんですけど、ストレートに歌う機会がこれまでなかったことに気づいたんです。ラップVerのいい部分もあるけど、カンザキさんの言葉をストレートに歌う方が伝わりやすいこともあるなと思って、今回チャレンジしてみることにしました。
私や他のシンガーたちにとってもそうですけど、神椿ファンの方々にとっても大切な曲なので、あの場で初披露することでいい意味で期待を裏切りたいって気持ちもありました。イントロがギターから入るのもその思いからで、なんの曲だろう? って思ってもらいたかったんです。オリジナルで披露したいっていうのは、私も運営さんも自然と思っていて、セトリを決める時にすんなりとアイデアが出てきましたね。
このままの自分でいいんだと
―KMNZさんとの「3D - Three Dimension」など他のアーティストさんとのコラボ楽曲も見ごたえがありました。コラボでの歌唱は普段と違った感触だったりするのでしょうか?
春猿火:他のアーティストさんたちは自分にはないニュアンスをたくさん持ってらっしゃるので、自分の歌声と合わさった時の胸熱感がありました。それが生でバンドメンバーさんの生み出すサウンドとも合わさって、楽曲のパワーを目でも感じてもらえるような迫力で届けられたのが嬉しかったです。
―ライブの最後にはこれまで秘めていた過去やパーソナルな部分について明かされました。これからもアーティストとして歩んでいく上で必要なことだったとは思いますが、改めてなぜあの場で思いを打ち明けることにしたのでしょうか?
春猿火:春猿火としてはやはりかっこいいイメージが強いと思うんですけど、私自身はかっこいいに憧れているだけでかっこよくなんてないんです。でもそのままの本当の自分を見て欲しい思いはずっと抱えていて、それを伝えることでもしかしたら強くなれるのかもしれないって思いもありました。
どういう反応をしてもらえるかはわからなかったんですが、みなさんに優しく受け止めてもらえましたし、私はこのままの自分でいいんだって思えたんです。強くなれたというか気が楽になりました(笑)。
デビューしてからずっと、かっこいいを演じているというと少し違うのですが、常にかっこよくいなくちゃいけないみたいな意識はあって、自分自身のパーソナルな部分をどこまで出していいかわからなかったんです。
本当の私はもっとテンションが上がっていて、わちゃつきたいのにわちゃつけない! みたいなことがあって、そういうボロが出てくるというか本当の私が少しずつ滲み出てきたなかで、本当の私を見て欲しいって気持ちがどんどん強くなっていきました。
それでワンマンライブというタイミングで、ずっと曲を聴いて応援してくれているファンの皆さんに直接私の口から伝えたいと思ったんです。
1から作り上げたスタイル
―なんといっても春猿火さんの魅力はパワフルな歌唱力です。たたみかけるようなラップの中でもしっかりと意味を届ける歌い方をする上で、リズムと歌詞の意味の捉え方のバランスについてはどのように意識されていますか?
春猿火:悲しい部分は悲しく、感情的な部分は感情的にと歌詞の意味をそのまま歌うことを意識しています。お芝居をするのとはまた感覚が違うんですが、どういう感情で歌う歌詞なのか意味を汲み取って歌っていますね。
ラップになるとリズムの考え方がまた違っていて、ただオケのリズムに合わせるんじゃなくて後ろ目にした方がかっこよくなったりすることもあります。いろんなリズムの取り方があって難しいんですが、そこが面白い部分でもあるんですよね。なのでどっちに比重を置いているということでもなく、歌詞の意味もリズムも両立させるようにしています。
―そうした唯一無二のスタイルはどのように身に着けていったのでしょう?
春猿火:最初は「ヒップホップ」と調べて出てきたものを上からとにかく聞いたりしていました。でもラッパーさんによってフロウの感じが千差万別だったり、スタイルが人によって大きく異なるのでどれを取り入れればいいかわからなかったんです。
なので、たかやんさんやディレクションしてくださってるラッパーさんにも聞いて、こういう歌い方なら私に合っているかもというスタイルを模索していきました。
―1から自らのスタイルを築き上げてきた今だからこそ感じる、ヒップホップの魅力はどのような部分にありますか?
春猿火:ヒップホップのリリックって普通よりどストレートというか、赤裸々に思いを表現しているのが魅力的だと思います。そもそもこんな言葉遣いしていいの?! みたいな刺激的なワードを使ったりもしていて、ヒップホップに出会わなければ知れなかった世界を知れるのはすごい勉強にもなっていますね。
春猿火は私だし、私は春猿火。
―レーベルメイトの皆さんで結成されたV.W.Pでの活躍も目覚ましく、先日は初のアニメタイアップも発表されました。ユニットでの活動は普段の一人での活動とどう異なりますか?
春猿火:5人での歌唱となると、それぞれの歌声を調和させないとという思いもありつつ、その中でどう個性を出していくかも考えないといけないので、一人で歌う時より試行錯誤が増えるような気はします。みんな違う個性を持っているし、いい意味で統一感がないから歌唱に対する意識はやっぱり少し違いますね。
―外から見ると5人の中で春猿火さんはみんなのまとめ役的な立ち位置に見えているのですが、実際集まるとどのような雰囲気なのでしょう?
春猿火:確かにまとめ役みたいなポジションではあるかもしれません。みんなふわふわしているので、飛んでいかない様に掴んでいるような感じですかね(笑)。
ちゃんとまとめられているかは怪しいし、私も一緒にワチャつくこともあるんですけど、それくらいみんなでいるのは楽しいんです。優しくて暖かいし、私もそのままの姿でいられます。
―それぞれのメンバーの印象についてうかがえますか?
春猿火:花譜ちゃんはがんばり屋さんですね、歌にむちゃくちゃ向き合うストイックさがあって、それはライブなどでも全面に表れています。
理芽ちゃんのことを話すとオタクになっちゃうんですが…とにかく彼女の歌がめっちゃ好きです。余裕のある歌い方や間の取り方は独特で、私も参考にさせてもらっています。でもあのなんともいえないチルい感じは真似できないですし、憧れですね。
情緒ちゃんは、歌も歌えて絵も描ける多彩な人なので、人間なのかな?って思うことがよくあります。歌声も絵も繊細で、一度聞けば、一目見れば心を惹きつける。そこが魅力だと思っています。
幸祜ちゃんはドラムも叩けるし歌声もキャッチ―ですごいシンガーなんですが、性格はすごいふわふわしてるってギャップが面白いんですよね。いろんな表情を見せてくれるのも魅力的だし、暖かい人です。
―そしてその中に加わっているご自身のアーティスト性についてはどう考えていますか?
春猿火:私は自分自身が嫌いだったんですけど、春猿火として音楽活動をしていくことで表現したかった音楽を恥ずかしがることなくまっすぐに届けられるようになりました。臆病な私が春猿火になったことで自分の本音をさらけ出せている、そうやって強いイメージだけじゃなくて弱い部分も見せられるようになったのが魅力なのかなと思います。
春猿火は私だし、私は春猿火。シャーマニズムですべてを曝け出したことでその感覚がようやく掴めてきたというか、一つになれた感じがするんです。
ライブ後にTwitterを見たら、過去とか弱い部分も含めて好きみたいなコメントをたくさんいただけたので、気持ちは楽になりました。今までもありのままでいようとは思ってやってきたんですけど、これからはもっと内に秘めているものを開放していけると思います。
―Twitterの話が出てきたので是非うかがってみたいのですが、普段エゴサってするんですか?
春猿火:します! 今だとアルバム楽しみとかこの曲にハマってるみたいな声が聞けて嬉しいですね。結構若い世代のファンが多くて、この曲のここがめっちゃ好きみたいに思いをどストレートに伝えてくれるので、日々励みになっています。
デビューしたての頃はラップのことについて言われることが多かったんですけど、今は徐々に認めていただけるようになった感覚もあります。でも「ラップ下手くそ!」 とか言われると、「うまくなってやる!」って気持ちにもなるので、そうしたヘイトも全部糧にするようにしているんです。多少落ち込むこともあるんですけど、そのままへこんでいたって状況は変わらないので、頑張って練習したりとかすぐに切り替えることを意識しています。なんだか質のいいエゴサができているみたいですね…!(笑)
みんなと一緒に階段をのぼっていく
―ライブで発表された1stアルバム『心眼』のリリースも迫っていますが、1stにして集大成的内容の本作はどのような仕上がりになっているのでしょう?
春猿火:デビューからこれまでの楽曲たちがギュッと詰まっていて、私自身を表現できた一枚になっています。シングルで曲を発表して、曲が揃って来たらアルバムを出すっていう形に憧れをもっていたので、CDという形でリリースできたこともすごく嬉しいです。
今はサブスクとかでスマホ1台であらゆる音楽が聴けますけど、私は元々CDを買うタイプでしたし、音楽が自分の一部になるような感覚を味わうのが好きでした。それってやはり手元に形が残ってこそだと思いますし、音楽以外の部分でもジャケットや歌詞カードというパッケージならではの部分にいろんな刺激を感じてもらえると思います。
―本日はありがとうございました。最後にこれから目指していきたい理想のアーティスト像についてうかがえますか?
春猿火:リリックを少し書かせてもらったりしているんですが、いずれは全部自分で書けるようになりたいし、作詞ももっと本格的にやってみたいです。ワンマンライブで今の気持ちを全部伝えて、自分でも変われたなって思うので今後はもっと心の内側を曝け出しつつ、成長した歌声でよりストレートに歌を届けられるようになりたいと思います。そうやっていろんなことに挑戦しながら、みんなと一緒に階段をのぼっていくアーティストでありたいですね。